短編小説

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短編小説: 税の迷宮の国

税の迷宮の国 むかしむかし、ある国に「帳簿の森」と呼ばれる場所がありました。 そこには無数の道があり、すべての国民は毎年そこを通らなければなりませんでした。 森の入口には看板が立っていました。 「正しく進めば、あなたの義務は果たされます」 ...
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短編小説: 承認待ちの国

承認待ちの国 その国では、何かを始める前に必ず 事前承認を取得しなければなりませんでした。 店を始めるのにも承認。 新しい料理を出すにも承認。 恋人にプロポーズするにも、もちろん承認。 「無秩序を防ぐためです」 政府広報は、いつも穏やかにそ...
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短編小説: 山に囲まれた村

山に囲まれた村 山に囲まれた小さな村があった。 その村には、外へ通じる道が一つしかなかった。 断崖に架けられた、古い吊り橋だ。 村人たちは言う。 「この橋が落ちたら終わりだ」 「橋を守るしかない」 「橋を強くすることだけが重要だ」 だから皆...
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短編小説: 二人の名探偵

二人の名探偵 霧の港町に、二人の名探偵が招かれた。 一人はロンドンから来た紳士、エドワード。 整った口ひげと、磨かれた革靴。 彼は言う。 「犯罪とは、個人の欲望が生む論理的帰結です」 もう一人は、海を越えてやってきた静かな男、真田。 濃紺の...
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短編小説: 燃える海峡

燃える海峡 計算結果は、最初から変わらなかった。 「輸入原油、残り二十一日分」 淡々と表示された数字を、否定できる者はいない。 人工衛星の映像は嘘をつかない。 海峡に並ぶ炎の筋が、それを証明している。 「輸送船がまた一隻」 報告の声は静かだ...
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短編小説: 空への門

空への門 国の中央に、「期待局」という役所があった。 表向きの業務は統計の管理である。 しかし実際の任務は、国民の「未来予測値」を調整することだった。 未来予測値とは、国民が「この国は良くなる」と思っている割合を数値化したものである。 数値...
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短編小説: 歪んだ物差し

歪んだ物差し 統計局第七会議室。 空調は一定。 照明は均質。 机上には最新版SNAマニュアル。 「速報値、確定しました」 若手が読み上げる。 「名目GDP、世界第五位」 誰も顔を上げない。 「為替要因が主です。実質では大きな変化はありません...
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短編小説: 経験のない知能

経験のない知能 その教師は、教えることが減ったと感じていた。 教室は静かだ。 生徒たちはよく理解し、よく答える。 間違えない。迷わない。質問もしない。 「今日はここまでです」 そう言うと、生徒たちは一斉に立ち上がる。 無駄のない動き。訓練さ...
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短編小説: 増える不幸

増える不幸 会議はいつも、被害報告から始まる。 「本日は三件です」 担当者が淡々と読み上げる。 「一件目。上司の何気ない一言により、  部下が『軽視されたと感じた』案件」 誰も驚かない。 もう何年も、こうだ。 「二件目。  同僚が成功体験を...
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短編小説: 軽い世論調査

軽い世論調査 輸送艇〈オピニオン〉には余剰がなかった。 燃料も、時間も、そして「支持」も。 船体中央の計測盤には、いつも同じ数字が灯っている。 支持率:54% それは地球政府の公式発表であり、 毎晩のニュースで読み上げられる、安心の数値だっ...